相続の承認と放棄

相続・贈与に関するもの

相続の承認

相続人には、相続開始後被相続人の財産を承継(相続)することについて、3つの選択があります。

うち、2つは相続することを承認する内容で、
一つは相続することを単純に承認すること
一つはプラスの財産の範囲内で借金など債務を承継することを承認すること
です。

もう一つの選択肢は相続すること自体を放棄することです。

これは、借金などの債務が多い場合、相続人が被相続人の財産を承継しなければならない義務しかない場合は、相続後に生活できない事態も想定されるため、そのような場合は被相続人の財産を承継するかどうかの選択しが与えられています。

単純承認

民法920条には
「相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。」
とあります。

つまり、
単純承認とは、債務を含めて被相続人の財産をすべて承継することを言います。

この場合、家庭裁判所に何の申請もしなければ単純承認をしたことになりますから、債務を含めすべて承継しなければなりません。

 

また、家庭裁判所で申請をしようとしていても、相続人が相続財産を処分(売却など)した場合は、単純承認したとみなされます。

 

限定承認

民法922条には
「相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。」
と規定されています。

つまり、
プラスの財産より借金などのマイナスの財産が多い場合は、プラスの財産を超える部分のマイナスの財産については承継しないという選択ができるということです。

 

限定承認をする場合は、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に相続財産の目録を作成して提出し、限定承認する旨の申述をして行います。(民法924)

相続人が複数いるときは、その相続人全員が共同して限定承認をしなければなりません。(民法923)

 

 

相続の放棄

相続の放棄とは、借金などの債務はもちろんのこと、プラスの財産を含めた全ての財産の承継を拒否することを言います。

相続を放棄する場合は、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に相続を放棄する旨の申述をして行います。(民法915、938)

 

ここで注意しなければならないのは、遺産分割協議で財産を承継しなかった場合は相続の放棄ではないということです。

つまり、
借金等の債務がある場合、相続人は金融機関などから返済を求められますが、遺産分割で財産を承継しないという選択をしても、返済を求められる可能性があるということです。

借金を承継したくない場合は、相続放棄をしておけば金融機関から返済を求められることはありません。

 

また、相続放棄は撤回できませんが、詐欺や脅迫により放棄をしてしまった場合は放棄したことを取り消すことができます。

 

 

相続の放棄があった場合の相続人と相続分

民法上では、相続の放棄があった場合は、その放棄した相続人は初めから相続人とならなかったとみなされます。(民法939)

 

また、相続放棄の場合は、相続欠格・廃除とは異なり、代襲相続が発生しません。

つまり、
相続欠格・廃除の場合はその子どもや孫などが代わりに相続できますが、相続放棄の場合はそれができません。

 

従って、
相続人や相続分に変更が生じることがあります。

 

 

相続の放棄があった場合の相続税の計算

相続放棄があった場合は、民法上は相続人や相続分に変更が生じることがありますが、生命保険金等の非課税限度額や相続税を計算するときの「法定相続人の数」は、相続の放棄があってもその放棄がなかったものとして計算します。

 

これは、作為的に相続放棄がされそれにより相続税等を計算する際「法定相続人の数」が変更されるという規定の場合、課税の公平が崩れてしまうという理由により、その放棄はなかったものとして当初の「法定相続人の数」により計算することとなっています。