相続税の物納制度
国税は、金銭で納付することが原則ですが、相続税に限っては、納付すべき相続税額を納期限まで又は納付すべき日に延納によっても金銭で納付することが困難な理由がある場合には、納税者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として、一定の相続財産で相続税を納付する物納が認められています。
この場合、その相続税に附帯する加算税、利子税、延滞税及び連帯納付義務により納付すべき税額等は、物納の対象とはなりません。
また、財産の生前贈与を受けて相続時精算課税又は非上場株式の納税猶予を適用している場合には、それらの適用対象となっている財産は、物納の対象とすることはできないこととなっています。
物納制度の要件
次に掲げるすべての要件を満たしている場合に、物納の許可を受けることができます。
- 相続税を延納によっても金銭で納付することが困難な事由があること
- 申請により税務署長の許可を受けること
- 金銭で納付することが困難である金額の限度内であること
- 物納できる財産であること
物納に充てることができる財産
- 物納に充てることのでき財産の種類とそ順位は、納付すべき相続税額の課価格計算の基礎となった相続財産のうち、次表に掲げる財産の種類と順位になります。ただし、物納劣後財産を含めた申請の順位は①から⑤になります。
- 物納に充てる財産の価額が、物納申請税額を超えないよう選定しなくてはなりません。
ただし、他に適当な価額の財産がなく、その性質・形状等より分割すること困難な場合など、やむを得い事情があると税
務署長判断したには物納申請税額を超える財産による物納が認められます。
順位 | 物納に充てることのできる財産の種類 |
第1順位 | ① 不動産、船舶国債、証券、地方債証券、上場株式等 |
② 不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの | |
第2順位 | ③ 非上場株式等 |
④ 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの | |
第3順位 | ⑤ 動産 |
物納に充てることができない財産
以下の財産は物納に充てることができない財産となります。
①不動産
- 担保権の設定の登記がされていることその他これに準ずる事情がある不動産
- 権利の帰属について争いがある不動産
- 境界が明らかでない土地
- 隣接する不動産の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産
- 他の土地に囲まれて公道に通じない土地で民法第210 条(公道に至るための他の土地の通行権)の規定による通行権の内容が明確でないもの
- 借地権の目的となっている土地で、当該借地権を有する者が不明であることその他これに類する事情のあるもの
- 他の不動産と社会通念上一体として利用されている不動産若しくは利用されるべき不動産又は二以上の者の共有に属する不動産
- 耐用年数を経過している建物
- 敷金の返還に係る債務その他の債務を国が負担することとなる不動産
- 管理又は処分を行うために要する費用の額がその収納価額と比較して過大となると見込まれる不動産
②株式
- 譲渡に関して金融商品取引法その他の法令の規定により一定の手続が定められている株式で、当該手続がとられていな
い株式 - 譲渡制限株式
- 質権その他の担保権の目的となっている株式
- 権利の帰属について争いのある株式
- 二以上の者の共有に属する株式(共有者全員が当該株式について物納の許可を申請する場合を除く。)
- 暴力団員等によりその事業活動を支配されている株式会社又は暴力団員等を役員(取締役、会計参与、監査役及び執行役)とする株式会社が発行した株式(取引相場のない株式に限る。)
③不動産又は株式以外の財産
物納財産の性質が不動産又は株式に定める財産に準ずるものとして税務署長が認めるもの
他に適当な価額の財産がある場合には物納に充てることができない財産(物納劣後財産)
次に掲げる財産は、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限り物納に充てることができます。
- 地上権、永小作権若しくは耕作を目的とする賃借権、地役権又は入会権が設定されている土地
- 法令の規定に違反して建築された建物及びその敷地
- 土地区画整理法による土地区画整理事業等の施行に係る土地につき仮換地又は一時利用地の指定がされていない土地(その指定後において使用又は収益をすることができない土地を含みます。)
- 現に納税義務者の居住の用又は事業の用に供されている建物及びその敷地(納税義務者がその建物及び敷地について物納の許可を申請する場合を除きます。)
- 劇場、工場、浴場その他の維持又は管理に特殊技能を要する建物及びこれらの敷地
- 建築基準法第43条第1項に規定する道路に2メートル以上接していない土地
- 都市計画法の規定による都道府県知事の許可を受けなければならない開発行為をする場合において、その開発行為が開発許可の基準に適合しないときにおけるその開発行為に係る土地
- 都市計画法に規定する市街化区域以外の区域にある土地(宅地として造成することができるものを除きます。)
- 農業振興地域の整備に関する法律の農業振興地域整備計画において農用地区域として定められた区域内の土地
- 森林法の規定により保安林として指定された区域内の土地
- 法令の規定により建物の建築をすることができない土地
- 過去に生じた事件又は事故その他の事情により、正常な取引が行われないおそれがある不動産及びこれに隣接する不動産
- 事業の休止(一時的な休止を除きます。)をしている法人に係る株式
物納申請の手続き
物納申請書の提出
相続税の『物納申請書』及び『物納手続関係書類』は、納期限まで又は納付すべき日に、被相続人の死亡の時における住所地を所轄する税務署に提出してください。
物納申請書が提出期限に遅れて提出された場合、その物納申請は却下されますので、提出期限にご注意ください。
物納手続関係書類の提出期限の延長
物納申請書の提出期限までに物納手続関係書類の提出ができない場合には、その提出期限までに『物納手続関係書類提出期限延長届出書』を提出することにより、物納手続関係書類の提出期限を延長することができます。
この提出期限の延長をする期間については、「年7.3%」と「前々年の10月から前年の9月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合として各年の前年の12月15日までに財務大臣が告示する割合に、年1%の割合を加算した割合」のいずれか低い割合の利子税がかかります。
物納の許可までの審査期間
物納申請が行われた場合には、物納申請書の提出期限の翌日から起算して3か月以内に許可又は却下を行います。
ただし、物納申請財産が多数ある場合や積雪などの気象条件により財産の確認ができない場合などには、この審査期間を最長9か月まで延長する場合があります。
申請者においては物納申請期限までに物納手続関係書類の作成を行い、物納申請書に添付して提出する必要があるほか、提出された書類の訂正等や物納申請財産を収納するために必要な措置の実施についても、定められた期限までに行う必要があります。
物納申請が行われた時の利子税の納付
物納申請が行われた場合には、
- 物納の許可による納付があったものとされた日までの期間のうち、申請者において必要書類の訂正等又は物納申請財産の収納に当たっての措置を行う期間
- 却下等が行われた日までの期間
について、利子税がかかります。
物納申請が却下された場合
物納申請の内容が法律の定める要件を満たしていない場合、物納申請財産が物納に充てることのできる財産として不適格であると判断された場合、物納手続関係書類が期限までに提出(又は訂正)されない場合及び措置事項を期限までに完了できない場合などには、物納申請が却下されます。
物納申請が却下された相続税額については、却下理由を踏まえ、物納申請していない相続財産の状況及び納付資力等を勘案して、以後の納付方法を速やかに選定する必要があります。
延納申請への変更
物納申請を却下された理由が、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がないと判断されたものであるとき又は物納申請税額が延納によっても金銭で納付することが困難な金額より多いと判断されたものであるときには、『相続税物納却下通知書』を受領した日の翌日から起算して20日以内に『相続税延納申請書』を提出することにより、物納が却下された相続税額について延納の申請をすることができます。
物納の再申請
物納申請を却下された理由が、物納申請財産が管理処分不適格財産に該当すると判断されたもの又は物納劣後財産に該当するもので他に適当な価額の財産があると判断されたものであるときには、却下通知書を受領した日の翌日から20日以内に、他の財産により『相続税物納申請書』を提出することにより、物納の再申請をすることができます。
物納申請が却下されたことによる再申請は、却下された財産ごとに一回の申請に限られます。
速やかに納付
物納申請が却下された場合で延納申請へ変更や物納の再申請をしないときは、却下された相続税は速やかに納付する必要があります。
この納付すべき相続税には、
- 法定納期限の翌日から却下の日までの期間について利子税
- 却下の日の翌日から本税の完納の日までの期間については延滞税
がかかります。