寄附を受け入れる準備をしていると田辺市が発表
先日新聞などで、紀州のドン・ファンこと故野崎幸助氏(享年77歳)のおよそ13億円の財産すべてを田辺市に寄贈するという遺言書が発見され、田辺市はその寄贈を受け入れる準備を始めたと報道されました。
紀州のドンファンと言えば、死因が急性覚せい剤中毒で死亡したため、誰かに服毒されたのではと大騒ぎなったのは記憶に新しいところ。
当時はまだ遺言書が発見されていませんでしたので、誰がいくら相続して相続税はいくらくらいになるのかとワイドショーでも放送していました。
当初、財産は50億あるとか、愛犬イブに財産を渡す遺言書があるとか真実はどこにあるのかわからない報道ばかりでした。
遺言書の有効性
今回報道された遺言書の内容は
- 全財産は13億円
- 全財産を田辺市にキフする
という内容でした。
この遺言書は野崎氏の知人の会社社長宛てに送付され、家庭裁判所で検認手続きをしたとのこと。
自筆の遺言書は家庭裁判所が検認すれば、本人の遺言書であることは証明できます。
ただ、遺言書が何通もある場合は、一番最後に書いたものが有効とされていますので、この検認手続きはこの遺言書が一番最後で有効なものであるという証明ではありません。
したがって、田辺市はまだ遺産相続について、何も決まっていないのにこのような発表をしてもよかったのだろうかという疑問はあります。
遺言書が有効なものである場合、相続人は財産を受け取れないのか
兄弟姉妹に遺留分はあるか
遺言書が何通もある場合は、一番最後に書いたものが有効であることは先述しました。
何通もある場合には、この一番最後であることを判断するのは裁判しかないと思います。
仮にこの遺言書が有効であると判断された場合には、どのようなことが起こるでしょうか。
遺言書には相続人(妻、兄弟姉妹)には財産を与えない旨記載されていますので、相続人は財産を得た方に対し遺留分減殺請求をすることができます。
しかし、兄弟姉妹には遺留分がありません。
したがって兄弟姉妹は野崎氏の財産を承継できないことが確定します。
妻は財産を受け取れないのか
妻はどうでしょうか。
妻は相続順位がどのような形になっても遺留分があります。
したがって、妻が遺留分の減殺請求をすればその割合だけ財産を受け取ることができます。
相続順位
相続順位とは相続人の状況により相続人が変わっていく順番のことです。
第1順位:配偶者、子ども
第2順位:配偶者、直系尊属(父母、祖父母など)
第3順位:配偶者、兄弟姉妹
野崎氏の相続人は、妻と兄弟姉妹なので第3順位ということになります。
遺留分がないのは、第3順位の兄弟姉妹のみです。
妻の遺留分
では、妻の遺留分はいくらになるでしょうか。
遺留分は総体的遺留分が2分の1ありますが、それを個別遺留分として法定相続分を乗じることになっています。
したがって、第1順位と第2順位の場合の遺留分は、法定相続分の2分の1と同じ割合となります。
今回の件では総体的遺留分が2分の1であることは変わりないのですが、兄弟姉妹には遺留分がないのでこの2分の1すべてを妻が持つことになります。
妻が受け取れる財産の額と納付する相続税の額
妻は遺留分が2分の1ですから、遺留分減殺請求をした上で受け取ることができる額は6億5千万円ということになります。
相続人が7人と仮定すれば相続税額は
- 基礎控除の金額
6億5千万円-7,200万円(3,000万円+600万円×7人)=5億7,800万円 - 相続税の総額
妻:5億7,800万円×3/4×50%-4,200万円=1億7,475万円・・・①
兄弟姉妹:5億7,800万円×1/4×1/6×15%-50万円=3,112,450円…②
相続税の総額:①+②×6=193,424,700円
今回は財産を受け取るのは妻だけとなりますので、この193,424,700円はすべて妻が負担することになります。
配偶者の税額軽減
妻が財産を受け取っても配偶者の税額軽減を受けられるから納税額はゼロじゃないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。
今回の件で、妻が配偶者の税額軽減の規定の適用を受けることができれば納付する相続税額はゼロとなります。
相続税法では
配偶者の税額軽減の規定は、相続税の申告書を申告期限(相続開始から10か月以内)までに提出した場合に適用できるとされており、
10か月以内の遺産分割を想定しています。
10か月以内に分割できないときには、
「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出すれば、10か月以内に遺産分割できない場合でも
修正申告書(更正の請求書)を提出した時に配偶者の税額軽減の規定を受けられることになっています。