日本におけるM&Aの現状
大型買収案件であっても、今までの日本でのM&Aでは金銭による買収が行われていました。
ただ、世界を見ると他の先進国では株式を対価とするものや、株式と金銭を併せた形が見受けられるようになり、日本だけ株式を対価とするものはほとんどなく、また買収価額も高額なものについては日本の企業は少ない状況にありました。(経済産業省資料から)
日本でそれができないのは税制も理由の一つだといわれています。
具体的には、
株式を売却するとその対価が金銭であろうが株式であろうが、現在の日本の税制では株式の譲渡所得税がかかります。
その場合、所得税がかかるからと言って買収に応じない株主も現れます。
また、株式を対価とした場合であっても、納税資金確保のためその株式を売却する株主が現れると株価下落のリスクがあるため、買収に踏み切らない法人も出てくる可能性があります。
そこで、株式を対価とする買収については、その株主について株式譲渡益については課税が繰り延べられる措置が取られました。
改正の概要
産業競争力強化法の改正を前提に、法人が、同法の特別事業再編計画(仮称)の認定を同法の改正法の施行の日から平成33 年3月31 日までの間に受けた事業者の行ったその特別事業再編計画に基づく産業競争力強化法の特別事業再編(仮称)により、その有する株式を譲渡し、その認定を受けた事業者の株式の交付を受けた場合には、その譲渡した株式の譲渡損益の計上が繰り延べられることとなりました。
これにより、
買収会社が事業再編の計画について、大臣の認定を受けることにより、買収に応じた対象会社の株主は課税の繰り延べが可能となり、納税資金の確保が不要であるため、買収会社の株価下落リスクもなくなることから、事業再編がさらに進むものと思われます。
アッヴィ社の例
アメリカの医薬品企業アッヴィ社は、2014年にイギリスのシャイアー社を550億ドルでの買収計画を発表し、本社をアメリカより税率の低いイギリスに移転しようとしましたが、アメリカ政府が課税逃れ目的で海外に本社を移転することを防止する新規制を敷いたため断念しました。
それほどアッヴィ社はM&Aに積極的な会社ですが、翌2015年にアメリカで血液がん領域で主導的立場にあるファーマサイクリックス社を210億ドル(約2兆5200億円)で買収することしました。
株主に対しては
①現金 :1株あたり、261.25ドル
②株式 :1株あたり、自社株3.9879株
③現金と株式の混合:1株あたり、現金152.5ドル+自社株1.6639株
の3つの条件を提示し、最終的に発行済み株式の87%を取得しました。
以上、経済産業省の資料を引用しました。
今後このような買収案件が日本でも出てくることでしょう。
=編集後記=
株式交換の場合、課税が繰り延べられるのは100%完全子会社になるときに限定されています。
今回の措置は株式交換にならない場合が想定されています。