配偶者居住権の概要
令和元年7月からの民法改正により、相続財産に新たに配偶者居住権が創設されました。
これは、被相続人とその配偶者が今まで住んでいた自宅を被相続人の子どもが取得した際、その配偶者がその自宅に住み続けられるように法律で保障したものになります。
具体的には、
被相続人とその配偶者が今まで住んでいた自宅を被相続人の子どもが取得した場合には、土地と建物をそれぞれ所有権と居住権とに分け、遺産分割をします。
また、被相続人が遺言書に、所有権は長男に、配偶者には居住権を相続させると記載することもできるようになりました。
このたび、国税庁ホームページに「配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例」が掲載されましたので、一部紹介します。
配偶者居住権の成立条件
配偶者居住権の要件は以下の通りです。
- 配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していたこと
- 遺産分割または遺言書により配偶者居住権を取得するものとされた場合
- 被相続人が相続開始の時において居住建物を配偶者以外の者と共有していないこと
このことから、被相続人が居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、配偶者居住権を設定することができないことなります。
配偶者居住権の効力
配偶者居住権は、配偶者がその居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利であることから、配偶者が居住建物の一部しか使用していなかった場合であっても、配偶者居住権の効力は居住建物全部に及びます。
つまり、配偶者が従前居住の用に供していた範囲と配偶者居住権の効力が及ぶ範囲とは、必ずしも一致しない場合があります。
また、建物の所有者となった者は配偶者居住権の設定登記をする義務があります。
配偶者居住権の存続期間
配偶者居住権は、その居住権を取得した配偶者が亡くなるまで有効です。
ただし、遺産分割協議書や遺言書で、別段の定めによりその期間を定めることもできます。
居住建物が滅失した場合
居住建物が滅失した場合には、配偶者居住権は消滅します。
配偶者居住権の相続税評価額
配偶者居住権の評価額は民法の価額と相続税法の価額とでは違います。
民法上の評価方法はこちらをご覧ください。
相続税法における配偶者居住権の評価方法
相続税法における配偶者居住権の評価額は以下の算式により評価されます。
居住用家屋
配偶者居住権の価額 =
居住建物の時価 - 居住建物の時価 × (耐用年数 - 経過年数 - 存続年数)÷(耐用年数 - 経過年数) × 存続年数に応じた法定利率による複利現価率
この場合の時価は、相続税法22条による時価を言いますので、家屋の場合は固定資産税評価額となります。
耐用年数は耐用年数省令に定める耐用年数を1.5倍します。
存続年数は、存続年数を終身とした場合には、配偶者居住権が設定された時のその配偶者の平均余命を言います。
≪参考≫
所有権部分の価額 = 居住建物の時価 - 配偶者居住権の価額
居住用家屋の敷地
敷地利用権の価額 =
居住用家屋の敷地の時価 - 居住用家屋の敷地の時価 × 存続年数に応じた法定利率による複利現価率
この場合の時価は相続税法22条による時価を言いますので、土地の場合は路線価等を基に計算した評価額となります。
配偶者居住権の評価方法の具体例
居住用家屋とその敷地は長男が取得。
家屋の相続税評価額:2,000万円
土地の相続税評価額:5,000万円
家屋の構造:木造
家屋の経過年数:10年3か月
配偶者の平均余命:11.71年
法定利率3%の場合の複利現価率:0.701
居住用家屋
2,000万円 - 2,000万円 × (22年×1.5 - 10年 - 12年) ÷ (22年×1.5 - 10年) × 0.701 = 13,294,783円
≪所有権部分の価額≫
2,000万円 - 13,294,783円 = 6,705,217円
居住用家屋の敷地
5,000万円 - 5,000万円 × 0.701 = 14,950,000円
≪所有権部分の価額≫
5,000万円 - 14,950,000円 = 35,050,000円