法務省の法制審議会の部会である民法(相続関係)部会において、民法における相続関係の部分の改正を検討しています。
今回は民法改正要綱案(相続関係)その1のつづきです。
遺言制度に関する見直し
自筆証書遺言の方式緩和
現行制度では、遺言を自筆証書遺言にした場合、家庭裁判所の検認手続きを経ないと有効な遺言とはなりませんが、手書きではない部分があると家庭裁判所で有効という判断をしてくれません。
今回の改正では、財産目録を添付する場合にその財産目録については自書でなくてもよいこととなりました。
具体的には、財産目録のページ毎に自書押印すればよいこととなります。
自筆証書遺言の保管制度の創設
現状、自筆証書遺言は自分で保管しなければならず、最悪遺言書自体が発見されない可能性もあります。
今回の改正で、
- 遺言者は法務局に遺言書の保管を請求することができる
- 遺言者は遺言書を保管している法務局に対し、遺言書の返還または請求することができる
- 上記1、2の請求は遺言者が自ら法務局に出頭して行う
- 何人も自己を相続人とする被相続人の遺言書または自己を受遺者とする遺言書については、法務局に対しその遺言書を保管している法務局等の名称を証明する書面の交付を請求することができる。ただし、遺言者の生存中にあってはこの限りでない。
- 何人も4の遺言書を保管している法務局に対し、その遺言書の閲覧を請求できる。ただし、遺言者の生存中にあってはこの限りでない
- 法務局は5の閲覧をさせたときは、5の閲覧の請求をした相続人以外の相続人等に対し、遺言書を保管している旨を通知しなければならない。
こととなりました。
その他、遺贈の担保責任等の明確化、遺言執行者の権限の明確化などが改正点として挙げられています。
遺留分制度に関する見直し
遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し
現行の民法1031条は「遺留分を保全するのに必要な限度で、(中略)減殺を請求することができる」となっています。
今回の改正で、
「遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができる」となります。
つまり減殺請求者は債権、受遺者または受贈者については債務が発生し、受遺者または受贈者はその遺留分侵害額を負担することとなります。
遺留分侵害額については、遺贈または贈与の目的の価額が限度となりますが、受遺者または贈与者が遺留分侵害額を負担すると明確に規定することで、偏った遺産分割を防止している形となっています。
遺留分の算定方法の見直し
現状、遺留分は過去の贈与分すべて持ち戻されて算定されます。
今回の改正で、
相続人に対する贈与は相続開始前10年間、相続人以外の者にされた贈与は相続開始前1年間にされたものに限られることとなりました。
また、遺留分についても計算方法が明文化されることになりました。
遺留分=(遺留分を算定するための財産の価額)×(遺留分率)×(遺留分権利者の法定相続分)
遺留分侵害額=(遺留分)ー(遺留分権利者が受けた特別利益)ー(遺産分割の対象財産がある場合の具体的相続分に応じた取得すべき遺産の価額)+(遺留分権利者が承継する相続債務の額)
遺留分の侵害額の算定における債務の取り扱いに関する見直し
遺留分減殺請求を受けた受遺者または受贈者は、遺留分権利者が承継する相続債務について免責的債務引受、弁済などの債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の限度額において負担する債務の消滅を請求することができることとされました。
相続の効力等に関する見直し
相続による権利、義務の承継、遺言執行者がある場合の相続人の行為について以下の規律が設けられました。
- 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなえれば、第三者に対抗することができない。
- 相続債権者は相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対しその法定相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その相続債権者が共同相続人の1人に対して指定相続分に応じた義務の承継をしたときはこの限りでない。
- 遺言執行者がある場合には、相続財産の処分その他相続人がした遺言の執行を妨げる行為は無効とする。ただし、これをもって第三者に対抗することができない。
編集後記
今回の改正では、平等に相続するという概念が一層強調されているように思います。